去年『デビルマン』のトリビュートコミック『ネオデビルマン』を買ったときに初めて読んで、衝撃を受けた黒田硫黄作品。とりあえず短編集からいってミヨーン!やってミヨーン!ってことでデビュー作含む『大王』を読みましたよ。
あらすじ
1993~1999年の間に発表された11作の短編漫画を収録した黒田硫黄初の短編集。
感想
いやー、なんでいままで読んでなかったんだろう。紙版に付いてる帯ではあの大友克洋氏や寺田克也氏といったレジェンドオブレジェンドたちもべた褒めしてるじゃないの。
「黒田硫黄氏は、キャラクターやエロに隷属された漫画界にあって、真にセンス・オブ・ワンダーを持った作家である」(大友克洋)
「“きれいな絵”も“きれいなハナシ”もねェ。“きれいなマンガ”があるだけよ」(寺田克也)
『大王』帯より
黒田硫黄氏といえば、まず筆で描かれた漫画を思い浮かべる人が多いと思う。私が初めて読んだデビルマンの短編も筆が使われてたんだけど、今回の短編集にはペンを使った漫画も多く収録されてて新鮮でした。むしろ最初はペンだったんだなあ~。ペン画だと、線の描き込みと女の子の可愛さが際立っていてこれもまたイイ。特に『あさがお』の水の表現は痺れた。
ストーリー面も、ボロアパートとか学校みたいなごくフツーの日常に異常な展開が仕込まれていて、着地が全く予想できなくて楽しかったです。まずデビュー作が「冴えないひとり暮らし男性の家に、和服のお姉さんに擬人化した“蚊”が忍び込む話」って、すでにぶっ飛んでるでしょ。
しかしどんなにヘンテコなことが起こっても、なんだか妙な説得力があるんだよね~。なんて思いながらWikipedia見てたら、黒田硫黄先生のご出身は麻布学園(※)らしくて勝手に納得した。学生時代からすでに只者ではなかったのだろうな。
※麻布学園:東京都港区元麻布にある私立の中高一貫男子校。東大合格者を輩出する超進学校ながら、自由な校風でも知られている。校則がない代わりに、生徒たちによって「麻布三禁」という3つのルールが設けられているらしい(1.校内での麻雀禁止 2.授業中の出前禁止 3.校内を鉄下駄で歩くことの禁止)。
今回の作品集はどれもセンスの塊で、個人的に特に好みだったのは『西遊記を読む』と『象夏』と『まるいもの』の3本でした。
『西遊記を読む』は教授と女学生の会話が心地よくてオトナの雰囲気。実は私『西遊記』ちゃんと読んでないんだけど、こういう会話で魅せる漫画って大好物。
『象夏』はダントツでよかった!! 女の子がひたすら無邪気でかわいくて切ない(タイトル見てそういえば電気グルーヴの『猫夏』好きだったな~と聴き返した。何回聴いても良い)。
『まるいもの』に出てくる「まるいもの」はね、どう考えても「猫」のことでしょ!!って私は思ったんだけどどうだろう。あとがきに解説がなかったのでわからずじまい。主人公の漫画家が女の子なので、これのせいで黒田硫黄女性説が流れたこともあるらしい(笑)。
読み終わってからネットサーフィンしてたら、クイック・ジャパンのバックナンバーに黒田硫黄と向井秀徳っていう完全に俺得の特集を見つけたので速攻で古本ポチりました(何しろ20年以上前に発行されたもので電子も新品もなかったのでお許しください)。
まるいものの正体、黒田硫黄キーワード事典とロングインタビューで明かされるかどうかは届いてからのお楽しみです。
『大王』の試し読みはコチラから!